極上吉乃川―かわら版―winter
極上吉乃川―かわら版―winter
気品高い香りとふくよかな旨みが好評の「大吟醸極上吉乃川」。夏場は農家である蔵人が自ら栽培した越淡麗を用いて醸し出したその酒は蔵人の「うまい酒」への情熱と吉乃川の蔵人として代々培ってきた技術の結晶と言えます。今回は吉乃川入社1年目の土田さんがその大吟醸の麹造りの模様を取材してきたことをお伝えします。
『越淡麗大吟醸の麹造り』
~外硬内軟の蒸米と突きはぜ麹~
「越淡麗の大吟醸の造りが15日から始まるよ」
そう聞いて12月15日に大吟醸の麹造りを見に蔵へ行ってきました。麹とは穀物(日本酒造りの場合はお米)にカビを生やしたものです。日本酒造りでは米のデンプンがブドウ糖になり、そのブドウ糖がアルコールに変わるのですが、この「デンプンをブドウ糖にする」のが麹の役目で、日本酒造りの要といえます。
吉乃川では10~4月までの仕込みの中で、大吟醸の仕込みを4回行います。今回はその2回目。
日本酒を造る最初の工程は洗米・浸漬。言葉通り、お米を洗って、水に浸す作業です。
大吟醸の造りは全てが手作業。精米歩合40%の越淡麗は丁寧に扱わないと美味しいお酒にはなりません。かといってゆっくりやっていては水を吸いすぎてしまいます。1つのかごの中に入っているお米の重さは約20キロ。水温は約7度。これを丁寧に、かつすばやく洗います。
蔵人は黒いトレイにお米をのせ、時間を確認しながらお米の給水状態を判断します。寒い冬に冷たい水で手作業で・・・。手をかけて美味しいお酒は出来ていくんだなあとしみじみ思いました。このお米は適切な温度と水分量に調整されたのち、蒸されるとのこと。
温度と水分量を調整されたお米は甑(こしき)で蒸されます。あらかじめ甑に蒸気を立てておき、その中にお米を敷き、蒸し上げます。蒸し上がったお米は運搬用の桶に盛られ、すのこまで運ばれていきます。重たい桶を蔵人は肩に担いで運びます。すのこに移したお米は湯気が立つうちから手で広げて冷まします。
蒸されたお米は、普段食べているようなモチモチしたような感じではなく、表面にも粘りがありません。麹造りに理想的な蒸米は外硬内軟と言われ、表面は乾燥して硬く、中が軟らかくなるように蒸されています。それは「突きはぜ麹」を造るためです。突きはぜ麹とはお米全体に麹の菌糸を繁殖させたものではなく、お米表面のところどころに菌糸が生え、その菌糸が中心部に向かって食い込むように、入り込んでいる麹のことを言います。旨みを引き出しながらも淡麗でキレのある酒を仕込むには最適な麹なのです。外硬内軟の蒸米だと表面が乾燥して硬いため、中のやわらかい部分に菌糸が入り込みやすいのです。
蒸米を冷ましたら、いよいよ麹室に運び込みます。
室の中は麹カビが繁殖しやすいように30度を越える高い温度と湿度に保たれています。その温度と湿度を保つために、麹室の扉も壁も厚さが20センチもあります。外はもちろん寒
いのですが、この室の中は本当に暑いです。冬なのに汗がにじみ出てきます。でもその環境が麹の生育に最適なのです。
台に冷ました蒸米を均等の厚さにし、均一に菌糸が付着するように目の高さで種麹を撒いていきます。この時、撒く人以外は空気を動かさないように動きを止めてこの様子をじっと見守ります。その様子は神聖な儀式のようにも見えます。撒いた後、布にくるんで1日保温します。蔵人は「寝せ」と言うそうです。そして麹蓋(こうじぶた)と呼ばれる浅い箱に米を盛り、保温し、ときおりかき混ぜて酸素の入れ替えや温度を調整します。「盛り」、「仲仕事」、「仕舞仕事」と呼ばれる過程を経て、表面にまだらに白い毛のような菌糸が生えた突きはぜ麹が出来ます。
麹が仕上がるといよいよモロミの仕込みです。準備しておいた酒母と麹、蒸米、仕込み水を合わせます。重い櫂を入れ、「添え」、「仲」、「留」の三段の仕込みをし、役40日をかけてお酒へとじっくりと変化していきます。その模様は後日またレポートいたします。どんな美味しいお酒に仕上がるのか今から楽しみです。